こだま国際特許商標事務所

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特許

(特許)面接のコツ

 特許出願では、拒絶理由通知がなされた案件に関し、面接を行うことがよくあるのですが、私はこうしています。このブログを審査官が見ていたら「ちがうぞ!」と言われるかもしれませんが、あくまで私見ということで。。。

1.発明開発背景の説明、製品の説明

 審査官は、通常業務として、出願書類を相手にしています(弁理士もそうですが)。そのため、実際の発明者から、明細書の裏にある、発明開発の「きっかけ」や「苦労」といった書面にない話を聞きたいと思っていることも少なくないと理解しています(せっかく面接するのですから、書面にない情報提供があるべきですよね)。そこで、これらの話をしつつ、出願にかかる商品の試作品等がある場合、その動作などの説明を行い、発明を理解してもらうのが好ましいといえます。ここは発明者のパート。

 一言でいえば、発明者の熱い思いを伝え、発明をより深く理解してもらうということですかね。

2.対比説明

 次に、拒絶理由にかかる内容に対する出願人の考え方の説明。ここは弁理士のパートですね。拒絶理由の確認、請求項の説明、引用文献の認定、引用文献との対比など。この辺りは事前に審査官に補正案を示しておくのもよい選択肢ですね。

3.その他:議論の流れ

 全体として、審査官の主張とその争点を理解し、そこに集中して話し合うことが大前提であり、さらにその前提として、審査と関係ないことは主張しすぎないことが重要です。本質でないところに時間を割くのは無駄になり、特に、上記1で、請求項とは関係ないところを主張しすぎると心証が悪いです。たしかに不利な場合は、あえて論点をずらしてしまうという戦略も取らないことはないですが、そうであれば請求項の補正案に入れるべきですしね。。。

 また、審査官によっては書類でほぼ理解しているので1は不要であると考える方もいますし、それぞれです。時間配分や主張内容については、審査官の感触を見ながら適宜調整していくということが重要です。

 繰り返しですが、審査官の論理を理解して、その論理に従った議論をすること。新規性や進歩性の議論は審査基準等に基づいて行われるため、これに基づかない主張は困った結果になります。これが非常に重要と考えています。

 (大変失礼な言い方になるところ申し訳ありません!)上記2の対比説明で、発明者の方がこの辺りで積極的にイニシアチブをとることを希望するのであれば、きちんと審査基準等に従っての主張でないと、逆に、出願人側に不利な主張を行ってしまうこともあるため、基本は弁理士に任せたほうが良いかな、と思っています。技術的な解釈の補足や、効果の主張で言い足りていないところなどを弁理士が困っているな、と思ったときに援護としてお話しいただくのが良いと感じています。ただこの辺りは、あまりうまくまとめられていないので、別の時にでも。。。

 

 以上をまとめると、(1)技術説明は発明者、特許議論は弁理士、という2本立ての役割分担で行うとよく、さらに、(2)特許性等の議論は、特許審査の実務論理に従って主張していかなければならない、というお話です。

(特許)拒絶対応時のコツ

 特許出願に関し、拒絶理由が通知された場合は、応答期間中(原則60日以内)に意見書と補正書を提出することができます。

 しかし、その意見書と補正書で拒絶理由が解消されるかどうかは出してみなければわかりません。リスクは少し高めですね。

 そこで、拒絶理由を解消させる確度を高めるためには、応答期間中に審査官にコンタクトを取り、技術説明や引用文献との対比などについて一度は面接を行うのがベスト。

 審査官面接時のコツについては別の時にお話ししますが、なかなか面接のハードルが高いのも事実。

 そこで、拒絶対応時には、審査官に連絡を取り、意見書と補正書の案を送付し、その感触を求めることもできます。具体的にはメールかファクシミリで確認をもらうことができます。

 今まではファクシミリのほうが多かったのですが、最近はパスワードをかけて審査官にメールで見てもらうほうが多くなってきました。

 このように審査官に事前に確認いただき、今回の案で拒絶理由が解消しているか否かの感触を得ることができます。もし、解消していないようであれば指摘事項を含め、改めて検討したうえで別途案を作成して特許庁に提出することができます。

 つまり、1回の拒絶理由で2回分の応答ができるというお得なことができます(ただ、弁理士によっては、この分の追加費用が発生することがあるので、費用が発生するのか否か確認してください)。

 これが特許査定率を高めるための工夫の一つですね。うちの事務所は、確実に拒絶理由が解消できそうなものや期限が近いもの以外は、大体行います(絶対ではないですが)。

PCT出願と新規性喪失の例外

 少し考えたことを一つ。

 原則として、特許出願は、その発明を発表する前に行わなければ、たとえ自分の発明でも拒絶されてしまいます。

 一方で、これは厳しすぎるということで、発表から1年以内であれば、その発表がなかったものとみなしてもらえます。これが「新規性喪失の例外」という規定です。

 しかし、この新規性喪失の例外の規定の適用を受けるためには、①特許出願と「同時」に新規性喪失の例外の規定の適用を受けたい旨の表示を行うとともに、②特許出願の日から30日以内に、その発表を行った内容すべてを記載した証明書を提出しなければなりません。

 そして、これを出願時にミスすると、新規性喪失の例外の規定の適用を受けることができません。例えば、特許出願前に3件の発表を行っているにもかかわらず、そのうちの2件だけ証明書を提出した場合は、残っている1件で拒絶されてしまうことになります。厳しいですね。

 ところが、PCT出願(国際特許出願)の場合、この新規性喪失の例外の規定の適用を受けるためには、国際出願時点において新規性喪失の例外の規定の適用を受けたい旨の表示は「任意」であり、その発表した文献の提出についても、その後(国内移行時)でよいのです。しかも、PCT出願の場合、先行技術文献に関する調査(国際調査報告)も行ってくれるので、漏れている文献を国際調査機関(特許庁)が見つけてくれる可能性さえあります!!

 すなわち、言いたいこととしては、国内出願の場合は、きわめて短時間に新規性喪失の例外を行わなければならず、リスクが高いのですが、少し費用はかかるものの、PCT出願を行っておけば、国内移行の時に手続きを行えばよく、しかも国際調査報告で漏れがないことを念のため調査してくれるということもあり、新規性喪失の例外におけるリスクを低減することができる。というものです。

 ただ、時間が経過して忘れてしまう、というリスクはありますが。。。

お餅と特許

 お餅を食べました。私はバター醤油での磯辺焼きが大好きです。

 お餅の話で話題になといえば、少し古くなりましたが、下記のニュース。

「切り餅」特許訴訟、越後製菓の逆転勝訴確定
最高裁、サトウ食品の上告退ける

2012年9月20日 日本経済新聞
 切り餅がきれいに焼ける「切り込み」技術に関する特許権を侵害されたとして、越後製菓(新潟県長岡市)が、サトウ食品工業(新潟市)に商品の製造差し止めや損害賠償などを求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(小貫芳信裁判長)は20日までに、サトウ食品工業の上告を退ける決定をした。
 同社に商品の製造・販売禁止と約8億円の賠償を命じた二審・知的財産高裁判決が確定した。決定は19日付。
 問題となったのは、切り餅の側面に切り込みを入れて形崩れを防ぎ、焼くときれいに膨らむようにする技術。
 越後製菓が2002年に特許出願し、08年に登録。切り餅の側面に加え、上下面にも切り込みを入れたサトウ食品工業の製品が特許を侵害しているとして提訴した。
 一審・東京地裁判決は「特許は、切り込みを側面に限定するもので、上下面に切り込みがあるサトウ食品工業の製品は特許侵害に当たらない」と特許権侵害を否定。これに対し、二審判決は「側面に切り込みがあれば、越後製菓の発明の範囲に含まれる」として特許権侵害を認め、越後製菓の逆転勝訴を言い渡した。
越後製菓は、サトウ食品工業が過去に販売していた別の切り餅も特許権を侵害したとして追加提訴し、東京地裁で係争中。
 サトウ食品工業によると、同社が現在製造している切り餅には、側面に切り込みは入っていない。

 日本経済新聞より引用(https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2004D_Q2A920C1CC1000/)

 

 上記の記事は、要するに、越後製菓が、サトウ食品(サトウの切り餅)に対して、越後製菓の「横にスリットを入れたお餅の特許」の侵害であるとして侵害訴訟を提訴して、勝った、ということなんですね。

 この特許を見てみます。特許番号は特許第4636616号。権利範囲(請求項1)は下記のようになっています。

【請求項1】
 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅であって、この焼き網に載置する際に、最も面積の大きい対向する広大面の一方を載置底面他方を上面とする高さ寸法が幅寸法及び奥行き寸法より短い薄平板状の偏平方形体の切餅の、前記上下の広大面間の立直側面に、この上下の広大面間の立直側面に沿う周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う周方向に直線状であって、四辺の前記立直側面のうちの対向二側面である長辺部の立直側面の双方に夫々形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際し、前記立直側面の周方向に形成した前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。

 初めて特許の文章を読む方は面食らうと思いますが、ざっくり上記の赤い字で書かれたところがポイントです。側面に沿った切り込みを入れてサンドイッチのように膨張することができる切り餅、ということですね。

 特許実務的には審査経過で非常に面白い論点がありますが、今日言いたいことは、「強い特許」とは、競合他社が「えっ?こんなのが特許になるの?おかしい!」と思うほど当たり前のような技術を先回りして取ったものです。

 相談の際によくいただく意見が「こんなの特許になるとは思えないけどね。」というご意見です。

 私は、このようなご意見をいただく度に「特許出願前の、明確で客観的な証拠がなければ特許庁の審査官は拒絶することができないんです」というお話をさせていただき、「もし、ないのであれば出願してみることも重要ですよ」とお話しさせていただきます。

 なぜなら、権利か出来たら上記のように強い権利になるし、ならなければ、ほかの人も特許にできないことがわかり、安心できるからです。

 一方で、最悪なのは「当たり前だと思って特許出願しなかったら他の人が出願して取ってしまった」というパターンです。

 よって、費用対効果を考えて、特許出願してみる、というのは戦略上あり、ということになります。

 なお、上記の考え方に似て防衛特許という考え方があるのですが、これはまた別の時にでもお話ししますね(すでにしていたかもしれませんが)。

 

職務発明の取り扱い

 企業の従業員が、職務遂行の結果発明を完成させた場合、その発明は「職務発明」となり、企業はその職務発明について譲渡を受けることができます。

 特に、平成27年の法改正により、「契約や勤務規則において予め企業にその職務発明が企業が取得すると定めた場合」は、その職務発明が発生したときから企業に帰属するという改正がなされました(特許法第35条第3項)。

 じゃあ、この前はどうだったかというと、実はあまり変わっていないのですが、「あらかじめ企業に職務発明について譲渡することを定めた契約、勤務規則は有効」の旨の規定がある程度でした(特許法第35条第2項)。

 これを読むと正直「何が違うの?」って思いますよね。実際、私もこの条文が入ったときに、何の違いがあるのかよくわかりませんでした。

 ざっくりいうと「貰うことが決定している状態」と「最初から貰っていた状態」の違いのようですが、これでもまだもやもやが残ります。

 今日は、この「何が違うの?」というところのお話。

 

 

 この法改正について解説を読んでみると、下記の二つのパターンがイメージされているようです(特許庁 平成27年度法改正解説)。

 【1つ目】職務発明の二重譲渡の禁止

 ここでもまだ「?」が残ると思いますが、具体的なイメージとしては「従業員が転職した後の特許出願」や「従業員の勝手な譲渡」への防御ということらしいです。

 もう少し細かく言うと、「前職の研究成果を転職先で勝手に特許出願しちゃう」というような場合への防御です。

 倫理的にはどうかなと思う例ですが、その人にとって見れば実際、「転職先へのおみやげ(自分の価値向上)」という感覚なのでしょうね。こんな例はいくつかありますが、これはまた別のときにお話ししますね。

 勝手に出願された場合、転職する前の企業は、当然怒って、「自分の会社の成果だった」と主張することはできると思います。

 ただし、「職務発明を貰うことが決定していた」という状態(以下「前者の場合」)と、「最初から貰っていました」という状態(以下「後者の場合」)では主張の強さが違うということのようです。

 実際、転職する前の企業は、この特許をつぶすアクションをとることになるのですが、特許法第34条には、発明に関する権利を承継した(譲り受けた)場合、特許出願をしなければ第三者に対抗できない(権利を主張できない)ということになっています。

 つまり、前者の場合だと権利の主張が困難である一方、「最初から貰っていました」と後者の場合にしておくことで、より強固に主張ができるということのようです(この点の詳細についてはまた別の日に話ができるかもしれません)。

 まとめると、職務発明について従業員が(転職後等において)勝手に譲渡して出願してしまったような場合でも、確実に「権利を主張し、または、権利無効にできるようするため」ということですね。そうであれば、確かに強さが違い、意味があるように思います。

 

 

 【2つ目】共同研究の場合の手続の簡略化

 次の場合は、他社と共同研究を行わない場合はあまり意味がなく、また、共同研究を行う場合でも正直「必要?」な感じなのですが、一応触れます。

 具体的には、二つの企業が共同で発明を行った場合の共同発明の取り扱いの問題解消ということらしいです。

 より具体的な例を挙げると、A社の従業員aと、B社の従業員bがいて、従業員aと従業員bが共同開発で職務発明を完成させたとき、というケースになります。

 普通に考えると、従業員aの職務発明に関する権利はA社に譲渡され、従業員bの職務発明に関する権利はB社に譲渡される、ということになります。普通ですね。

 しかしここで、一方の従業員(例えばA社の従業員a)が、相手側の権利の譲渡(例えば従業員bの権利をB社に譲渡すること)を嫌がった場合はどうなるのか?ということのようです。

 この点に関し、特許法第33条第2項では、「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない」と規定されています。

 つまり、 一方の従業員が嫌がった場合、自社の従業員の権利も譲り受けることができず、結果として特許出願ができなくなる場合がある、ということのようです。

 そのため、あらかじめ原始的にその企業のものとしておくことで、この同意を必要としなくてもよいようにする、というのが趣旨のようです。

 ただ、上記のような拒否をされる場合、そもそもトラブルになっていて、出願することは得策ではなく、上記手続的問題を解消しても、すでに出願の価値がないのでは?と思ってしまいますが。。

 

 個人的には、共同研究でこのような心配をして同意書を求めてくる相手方は数社程度は確かにいたことを記憶しており、その度に「必要はないと思うのだけれど、相手が求めてくるのであれば。。。」という程度で同意書を作成したのを覚えています。

 従業員がごねて問題となったことがあるという経験は、ほとんど記憶にない?と感じています。。。。ただ、法改正の解説(特許庁 平成27年度法改正解説)では問題となっているとのことでしたので、実際例はあったのでしょうね。法改正をするくらいまでのことが。。。。。

 ・・・いや、確かにあったかもしれません。ごねた例が。。。

 ただ、この例は、こちらが主張した例で、「他方の企業が一方的な条件を突き付けてきた場合の最後の一つ前のカード」でした。最後のカードは「出願拒否」ですが。。。

 すなわち、共同出願について、相手側が一方的すぎる条件を出してきて(例えば、こちらは発明の実施が実質的に想定できない状況で、費用負担も折半で、実施に応じた対価もなく、ただ費用を払い続けるのみとなってしまうような条件を突き付けられ)、これを受け入れるとこちらがあまりに不利になりすぎる場合でした。

 この条件について、こちらの従業員も納得できず、あまりに理不尽だったため、確かに、こちらの権利の一つとして主張したということがありました。メインは最後の手段である「出願拒否」でしたが。・・そう考えると意味があったのかもしれません。

 ・・・ってことは、この規定を入れられることで、共同研究の一方としては権利主張の手段を失う可能性がある、ということも考えなければなりませんね。

 ただし、このようなことは、共同研究の際、共同研究に参加する従業員に、「共同研究に参加することの同意」とともに、「共同研究の結果完成させた発明について、相手側がの発明者が共同研究先に当該発明の権利を承継させることに同意します。」の承諾書をとる 、又は義務を負わせせる状況を入れておけばよいだけの話なのかと思うのですが。。。

 比較的新しい条項ではありますので、より詳細な検討や、実務の例が挙げられてくるのを待つことになりそうですね。

 

オプジーボ

オプジーボに関して、小野薬品と本庶佑先生が和解したそうです。
今日はこの話題を。

オプジーボ特許料訴訟で和解成立 ノーベル賞・本庶佑氏と小野薬品

 がん免疫治療薬「オプジーボ」を巡り、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょ・たすく)・京都大特別教授が小野薬品工業(大阪市)に特許使用料の分配金262億円の支払いを求めた訴訟は12日、大阪地裁(谷有恒裁判長)で和解が成立した。京大が明らかにした。
 地裁が9月に和解案(内容は非公表)を提示し、双方が協議を続けていた。
 訴状などによると、本庶氏が求めているのは米製薬会社「メルク」が小野薬品に支払う特許使用料の一部。本庶氏側は小野薬品に支払われた使用料の40%分を受け取る約束があったが、実際は1%しか支払われていないと主張した。
 一方、小野薬品側は「本庶氏に40%分の支払いを提案したことはあるが断られた経緯があり、契約は成立しなかった」などと反論していた

引用先:毎日新聞2021/11/12
URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/e6955d04179a6df39248bd76edd72404df5dded3

 なんとなくわかったような、わからないような。
 ここで経緯の確認。ただし、インターネットで調べた範囲。

 なおここで皆さん気になると思うのですが薬の名前「キイトルーダ」。
薬が「効いとるだ!」って感じですね。。。というのは置いといて。

2003年07月 小野薬品工業と(以下「小野薬品」)と本庶先生オプジーボ特許出願
2006年 小野薬品と本庶先生、売上に応じた使用料を受け取る契約を締結
  第三者から実施料を得た場合1%(自社実施0.5%)の対価を本庶先生に支払う旨規定
2009年11月 特許4409430号成立
2011年 本庶先生から小野薬品にロイヤリティの見直し依頼あり。契約を根拠に拒否
2012年12月 特許5159730号成立
2014年 メルク社に対し「キイトルーダ」が小野薬品工業の特許を侵害しているとして提訴
2014年09月 本庶先生と小野薬品相良社長が面談。小野薬品から和解金の40%の受取の提案あり。
   (しかし「はした金」として本庶先生は拒否)
2017年01月 小野薬品にメルクが約710億円を支払う内容で和解。
2018年10月 本庶先生ノーベル賞受賞
2020年06月 本庶先生小野薬品に262億円の配分を求める訴訟を提訴
2020年11月 本庶記念基金設立
2021年09月 第2回口頭弁論
2021年11月 和解(京大の基金に230億円,本庶氏に50億円との報道あり)

 経緯を見てみるとなるほどという感じです。

(1)まず、特許が成立する前(2006年)に、本庶先生と小野薬品は実施料について1%で合意したようです。
 特許として成立していない状況や、どの程度の有効性があるのかが不明である状態であれば、確かにこのくらいの料率は見たことはありますが、さすがに1%は低いかな、とは感じます。原価割れの薬?って感じの料率ですね。

(2)ただ、ここで気を付けなければならないのは、オプジーボ(PD-1抗体)が癌治療剤として承認されるためには、負担の大きな臨床実験やそのための費用が莫大にかかる、ということです。「1%なんて低すぎる!」と言ってしまうのは早計かもです。
 発見したという事実は極めて大きいですが、薬として認可を受けるためにはとてつもない労力がかかることを忘れてはならず、そのことに対する小野薬品の寄与は無視してはならないところです。
 この辺りは多分、他の文献やこれからもう少し調べると妥当だったかわかると思うのですが、これはまた別の機会に。

(3)次に、2011年に本庶先生からロイヤリティ(実施料率)変更の申し込みがあったと。
 特許として成立したことや、有効性がわかってきたところで、見直しの依頼があったのでしょうね。
 で、小野薬品は契約を盾に断ったと。なるほど。
 個人の感覚で申し訳ありませんが、事情やその有効性がより明らかになったことで、確かに本庶先生の主張はありだと思います。
 一方で、企業としては契約している以上変えることができないと考えるのも普通に理解できます。
 なお、こういうときは、出願のときに「成立したら料率を再検討」とか「特別に利益が生じた場合には料率を再検討」のような条項をおまじないのように入れることを試みます。ただ、この条項は、あまり認めてもらえないことが多かった(むしろ殆ど)です。。。

(4)普通であればこれで終わってしまうところですが、転機がありました。
 2014年の小野薬品とメルクとの訴訟です。
 メルクとの訴訟で本庶先生の力が必要になりました。
 本庶先生の今までのうっぷんがここで晴らされるのか?といったところですね。

(5)そしてついに2014年、小野薬品から「40%」という条件を引き出せました。
 これについては裁判でも小野薬品の社長も認めています。
 個人的には裁判において、ここはすごい判断だったと思います。
 この発言を認めることで、元の契約があったとしても結構に不利になりますからね。
 通常、大きな企業は交渉において、決定権を有する者を直接交渉の場に出すことは少ないです。なぜなら、その場ですぐに判断を迫られ、それがすぐに会社としての決定になってしまうので、時間を稼いで念のため確認する必要があるためです(権限がない者であれば、言ってしまったとしても表見代理はともかく「その担当者が勝手に言ったようだが会社の決定ではない」ということが言えますので)。
 ただ、訴訟という状況と、何回も担当者から本庶先生に連絡してもらちが明かなかったということで、社長レベルでないとダメ、と判断したのでしょうが。
 書面で証拠が残ってしまっていたので認めざるを得なかったのでしょうかね?
 でも、本庶先生はこれを「はした金」といって突っぱねてしまいました。えっ?

(6)本庶先生が突っぱねたことにより、小野薬品は元の契約のまま履行しました。
 つまり、メルクからの710億円の和解金の1%でよいという解釈をしたわけです。
 会社としては「社長が言ったから」というだけで正式な契約もないのに40%(260億円以上)をポンと払うわけにはいかないですしね。

(7)そしてメルクからの和解金を受けて、本庶先生は残りの39%を支払うように要求したと。

  当初、このニュースを見たとき、失礼ですが「ノーベル賞を取った発明だから小野薬品に対して強気に出たのかな?」と思っていましたが、これはノーベル賞の受賞とは関係ないですね。

 また、1%のロイヤリティが40%に跳ね上がるって、今まで経験も聞いたことがないです。触媒のように、試薬レベルでは低く、プラントに導入されるときは高く、という話はありますが、それでもここまで変わるとは。。。
 薬という分野と、訴訟という事情の相乗効果なのでしょうね。

 

 ・・・なおここから先は、私として、あまり理解も納得もできない点のお話。

 メルクからの和解金710億円ですが、じつはこの特許は米国のBMSという会社にライセンスしており、710億円の75%はこのBMS社が、小野薬品は25%(145億円)しかもらっていなかったらしいです。

 つまり、小野薬品は145億円もらったけれども、280億円ほど今回の訴訟で和解金を払った(135億円程度損している)ということになるようです。

 ここで不思議なのが小野薬品とBMSとの関係です。

 小野薬品が本庶先生にライセンス料を渋るのは、自社の利益を最大化しようとする観点からわからなくはありません。
 でも、ライセンスしているとはいえ、特許権者である自分よりも、BMSのほうの取り分が多くなるような状態にするってどういう事情だったんでしょうかね?

 さらに、本庶先生には実施料1%でも渋ったのに、そのライセンス先(BMS)には75%って、確かに、本庶先生が聞いたら怒りますよね。というより怒らないわけがないように思います。

 で、更に、自分の取り分である25%以上の40%を本庶先生に支払うって言ってしまうところがまた訳が分かりません。15%の損が確定することになってしまうので。
 せめて25%の取り分の40%(全体の10%)ということであれば(訴訟費用を無視するとして)何とかまだ利益は確保できると思うのですが。。。

 なお、最近オプジーボ特許については、米国のがん研究の2人の米国人が発明者として加えるように米国連邦地裁に訴えていたとのこと。これはまた別の機会に。

ソフトウェア特許のコツ①

 ソフトウェア特許が認められるようになって、はや数十年。

 ソフトウェア特許を書くときのコツをメモ。

 ソフトウェア特許とは、コンピュータによるデータ処理を記載していくことによって成立させるものです。

 しかし、コンピュータによるデータ処理は、画面上では見えにくい。
 つまり、画面上に表れていない動作や計算方法については本当にやっているのかどうかわからないことが多い。

 どのような計算を行っているのかがわからない場合、特許がとれたとしても、模倣した者が、本当に自分の計算方法を使っているのかどうかがわからない以上、侵害警告を行うことは難しい場合が多い。

 複雑な式を導入することで、確かに特許性(特許のなりやすさ)は高まりますが、侵害発見が困難になります。請求項に入れるのは最後の手段というくらいに考えておいたほうが良いのです。

 そのため、ソフトウェア特許は、入力情報、出力結果等の確実に画面上に出てくる情報をそのデータ処理の対象とすることで権利化し、その計算方法については可能な限り請求項に入れないことがポイント。

 極論を言ってしまうと、審査官から「これらデータをどのように算出しているのかが曖昧である」といわれて記載不備の指摘をされるくらいがちょうどよいのではないかと、勝手に言い訳。

新型コロナのアビガン特許

 新型コロナウイルス感染症に対して、世界中でその治療薬開発が行われています。

 ところで、ニュースで「アビガン(一般名:ファビピラビル)」が新型コロナに聞くのでは?という話があったと思います。今日はこのお話。

 ファビピラビルは、抗インフルエンザウイルス剤として開発された物質であり、富山大学と富山化学工業が共同開発した薬であり、すでに特許として成立しています(特許第4355592号「抗ウイルス剤」現特許権者:富士フイルム富山化学株式会社)。

 しかしながら、中国が中国国内だけでなく日本においてもファビピラビルに関する用途発明を特許出願がなされていることがわかっています特願2020-173044)。

 え?そんなことってあるの? と思うと思いますが、残念ながらありうるんです。

 用途発明とは、たとえ既に知られた物質でも、その新たな用途(効果)を発見した場合、その用途に限定した形であれば、特許出願を行い、他の特許要件を満たす限りにおいて成立させてしまうことができるのです。

 つまり、今まで新型コロナウイルスなんて存在していなかったのですから、実証データさえあれば「新たな用途の発見」という主張はそう難しくはなさそうですよね?

 このブログの執筆時現在、日本の上記特許出願については、特許庁から拒絶理由が通知されているようですが、この結末について非常に興味があります。

 もし仮に、中国の特許出願が成立した場合、 基本特許の権利者である富士フイルム富士化学であっても、新型コロナウイルスの治療薬として出荷しようとする場合は、中国人民解放軍(のアカデミー)に特許料の支払いをしなければならなくなってしまいます。。。

 

強い特許って?

ここで問題です。

「強い特許」ってどのようなものだと思いますか?

誰も考えつかないような技術的に素晴らしい技術?
非常に精巧で複雑な技術?

確かに、技術的に素晴らしければ価値は高いかもしれません。
例えばノーベル賞を受賞した山中先生のiPS細胞等はすごいですよね。
特許としても稼いでいますよね。

これを見てしまうと「自分の発明なんて。。。」って思ってしまうかもしれません。
でもね、そうではないんですよね。

本当に「強い特許」というのは、
「その製品を作るためにはどうしても使わなければならない」特許なのです。
そして、極端なことを言うと「誰でも思いつくような」ものが多いです。
(もちろんそうでないものもあります。)

例えば、

「誰でも思いつくようなものが特許になるわけがない」と思いますか?
そうですよね。
でも、「特許出願をしたときは当たり前ではなかった」のです。

ポイントは、いずれ避けられなくなるであろう技術を、
如何に、早く先んじて出願してしまうか、ということです。

「自分の製品は簡単な改良だから」とあきらめるのではなく、
「簡単な改良だが他の人は回避できるか?」を考えてみる。
そして、その改良が新しく、そして効果があるのであれば、
出願を考えてみてはどうですか?

ただし、費用対効果が前提となりますので、その点は十分に弁理士と相談してください!!!

一発登録(拒絶理由通知なしの特許査定)

特許出願では、審査請求という手続を行うと、
特許庁審査官が審査を行い、
拒絶の理由があるか否かを審査します。

その審査の結果、
拒絶すべき理由があると考えた場合は拒絶理由がきますが、
拒絶すべき理由がないと考えた場合は特許査定がきます。

最終目標は当然、「特許査定」です。

で、ここで質問。
拒絶理由通知は来た方がよいですか?来ないほうが良いですか?
こんな時、当然「来ない方がよい」と答えるでしょう。私もそうです。
出願人の方にとっては余計な費用が掛かるものですしね。

でもね、拒絶理由が通知されずに一発登録というのは実はもったいない可能性があります。
「本当はもっと広くとれたかもしれないのに、狭く権利を取ってしまったかもしれない」という可能性です。

出願時には最大限広くとれる範囲を想定して記載するものです。
でも、一発登録というのは、
「本来特許を取ることができた範囲≧特許査定となった請求項」 の関係になります。

「本来特許を取ることができた範囲=特許査定となった請求項」であればよいのですが、
公知例が全く通知されていない状態で特許査定になるということは、
そのぎりぎりの範囲がわからず、もう少し広くとれたかも、ということを意味します。

ですので、拒絶理由が通知されず特許査定が通知された場合「もう少し広くとれたかも」という考えが必要です。
特許権を取得できるという喜びは当然ですが、この点を見落とさないでください。

昔、私が企業にいたとき、特許査定がきてしまうと、
権利をより広くするための分割出願のチャンスがなくなってしまうので、
確実な権利範囲を確認するため、
わざと拒絶理由をもらう請求項を作ったりしたこともあります。

ただ、現在は、特許査定が来た時にも分割することができるため、
この要請はかなり低くなりました。

一発登録でも油断しないように、というお話でした。