こだま国際特許商標事務所

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10月

SWOT分析①

 今日は知的財産とは少し離れるのですが、SWOT分析の話。

 SWOT分析とは、企業の内部環境、外部環境を分析するフレームワーク(枠組み)のことです。

 より具体的には下記のS(Strengths:強味),W(Weaknesses:弱み),O(Opportunities:機会),T(Threats:脅威)の四つを検討することで、経営戦略を策定しましょう、ということです。

 SWOT分析が重要な点は、四つの観点がわかりやすく、埋めやすくて使いやすいだけでなく、非常に有名なフレームワークであるため、他者に自分の事業を説明する際にも有用だということです。

 助成金や補助金ビジネスコンペでの申請においては、自分の事業がいかに他社の事業より優れているのかを表現し、今後の事業展開の有望性を主張することが重要です。

 その主張を客観的に見せる根拠づけるものとして、このSWOT分析を用いることが重要になってきます。

 

 ただ、気を付けなければならないのは、あくまで企業戦略策定という「目的」を達成するための「手段」ということです。

 手段が目的化してしまうと本末転倒になりますので、その点が注意です。

 作って満足してしまうと、これで終わってしまいます。そのあと、どういった戦略を立てていくことが重要か、ということが大切です。

 そのため、SWTO分析をもう一歩進めるクロス分析(クロスSWTO分析)があります。この点についてはまた別の日に説明します。

 

音楽教室と著作権料

 JASRACと音楽教室事業者(音楽教室を守る会)との裁判について、最高裁が上告を棄却したというニュースがあったので、今日はこのお話。

 音楽教室訴訟に決着「生徒演奏に著作権料不要」 JASRAC「主張が認められず残念」(Impress Watch 2022/10/25記事より引用)

 ことの発端は、2017年にJASRACが音楽教室から音楽著作権料の徴収を始めると発表したことによります。

 これに対し、音楽教室事業者らは反発。裁判までもつれ込んで、やっと決着がついたというお話。

 ここで、「音楽教室は著作権料を『一切』支払っていなかったのか?」と思われるかもしれませんが、これは誤解。

 今回の問題は、著作権の特徴的な性質が、利害として大きくクローズアップされた例であり、セミナーをやっていると非常に説明しやすい例として重宝しています。個人的な見解は別にして。。。

 

 

 著作権は、実は、音楽(著作物)の利用する行為ごとに権利が発生しています。つまり、著作権は、行為ごとに認められた権利の集合になっているのです。

 著作権は、例えば、他人の音楽を演奏する権利である「演奏権」音楽の楽譜をコピーする権利である「複製権」といった具合に、著作権という制度は、複数の権利があり、そのそれぞれの権利を使いたいのであれば、著作権者にそれぞれ許諾を受けなければなりません。めんどくさいと思いますよね。でも、法律上はそうなっているのです。

 

 具体的には、子供を音楽教室に入れるとき、練習する楽曲が印刷された「教本」を買いますよね。「印刷」ですので複製されている、ということです。

 実はこのとき、音楽教室は買ってもらった「教本」に記載された楽譜について、「複製権」の許諾を作曲者から貰っているため、まともな音楽教室は、作曲者にこの分の著作権料を(JASRAC経由で)支払っています。

 

 ただ、音楽教室で買った楽譜を見るだけでは上達しないので、当然、先生からのレッスンを受けるために、先生の前で弾きますよね。これが子供の演奏であり「演奏権」の無断使用になっていたということ(JARACの主張①)です。

 また、先生もお手本を示すために生徒の前で演奏しますので、これも「演奏権」の無断使用であったということ(JASRACの主張②)です。

 第一審の東京地裁では、JASRACの主張をすべて認め、子供の演奏も、先生の演奏も、無断使用であるため、演奏権についての料金を支払うべき、と判断しました。

 一方で、控訴審である知財高裁では、上記JASRACの主張①はないだろうということでJASRACの主張②を認め、「先生の分の演奏は演奏権料の支払いをしなさい」ということとなり、最高裁でもそのように判断した、ということになります。

 

 この結果、どうなるかというと、今までは、”例えば” レッスンの教本が1000円で、著作権料(複製権)が3%だった場合、30円をJASRACに支払うだけでよかったのですが、

 今回、演奏権が認められたことにより、”例えば”毎月8000円のレッスン料にも、著作権料が発生するようになるため、支払いが発生することになる、ということです。

 2017年の段階では、生徒の演奏権分と先生の演奏分で2.5%と主張しているようでしたので、先生分のみ支払うということになれば、仮に半分程度の1%としても、毎月80円(年間960円)の著作権料が発生することになります。

 この額の差は非常に大きいですね。これが、JARACと音楽教室側とで争いになった原因です。

 

 この結論に基づいて、今後JARACと音楽教室との間で取り交わされる戦略は下記の通りかと考えてみます(あくまで個人的な感想です)。

 ①JARAC側

 著作権料率を可能な限り当初の主張の2.5%に近づける(裁判における主張に矛盾しない範囲で)。

 たとえば、先生の演奏のウェイトがいかに大きかったのかを強く主張することで割合を大きくすることが考えられます。

 

 ②音楽教室側

 著作権料を可能な限り低くできるよう、JASRAC管理楽曲を外す。例えば、著作権の切れたクラシックの曲だけにしたり、JASRACに管理を委託された楽曲を除外する。

 あと細かな点はいくつかあるのですが、複雑になりすぎるので省略。

 

 ただ、いえることは、レッスン料の値上げをしないのであれば、それは先生と音楽教室の減収に反映される(400万円程度の収入であれば、1%~2%とすると4万円~8万円程度の減収)ことになるため、レッスン料の値上げを考えざるを得ないのは確実だろうな、ということですし、教本に掲載される楽曲の選択も大きく練り直される可能性がある、ということです。

 

職務発明の取り扱い

 企業の従業員が、職務遂行の結果発明を完成させた場合、その発明は「職務発明」となり、企業はその職務発明について譲渡を受けることができます。

 特に、平成27年の法改正により、「契約や勤務規則において予め企業にその職務発明が企業が取得すると定めた場合」は、その職務発明が発生したときから企業に帰属するという改正がなされました(特許法第35条第3項)。

 じゃあ、この前はどうだったかというと、実はあまり変わっていないのですが、「あらかじめ企業に職務発明について譲渡することを定めた契約、勤務規則は有効」の旨の規定がある程度でした(特許法第35条第2項)。

 これを読むと正直「何が違うの?」って思いますよね。実際、私もこの条文が入ったときに、何の違いがあるのかよくわかりませんでした。

 ざっくりいうと「貰うことが決定している状態」と「最初から貰っていた状態」の違いのようですが、これでもまだもやもやが残ります。

 今日は、この「何が違うの?」というところのお話。

 

 

 この法改正について解説を読んでみると、下記の二つのパターンがイメージされているようです(特許庁 平成27年度法改正解説)。

 【1つ目】職務発明の二重譲渡の禁止

 ここでもまだ「?」が残ると思いますが、具体的なイメージとしては「従業員が転職した後の特許出願」や「従業員の勝手な譲渡」への防御ということらしいです。

 もう少し細かく言うと、「前職の研究成果を転職先で勝手に特許出願しちゃう」というような場合への防御です。

 倫理的にはどうかなと思う例ですが、その人にとって見れば実際、「転職先へのおみやげ(自分の価値向上)」という感覚なのでしょうね。こんな例はいくつかありますが、これはまた別のときにお話ししますね。

 勝手に出願された場合、転職する前の企業は、当然怒って、「自分の会社の成果だった」と主張することはできると思います。

 ただし、「職務発明を貰うことが決定していた」という状態(以下「前者の場合」)と、「最初から貰っていました」という状態(以下「後者の場合」)では主張の強さが違うということのようです。

 実際、転職する前の企業は、この特許をつぶすアクションをとることになるのですが、特許法第34条には、発明に関する権利を承継した(譲り受けた)場合、特許出願をしなければ第三者に対抗できない(権利を主張できない)ということになっています。

 つまり、前者の場合だと権利の主張が困難である一方、「最初から貰っていました」と後者の場合にしておくことで、より強固に主張ができるということのようです(この点の詳細についてはまた別の日に話ができるかもしれません)。

 まとめると、職務発明について従業員が(転職後等において)勝手に譲渡して出願してしまったような場合でも、確実に「権利を主張し、または、権利無効にできるようするため」ということですね。そうであれば、確かに強さが違い、意味があるように思います。

 

 

 【2つ目】共同研究の場合の手続の簡略化

 次の場合は、他社と共同研究を行わない場合はあまり意味がなく、また、共同研究を行う場合でも正直「必要?」な感じなのですが、一応触れます。

 具体的には、二つの企業が共同で発明を行った場合の共同発明の取り扱いの問題解消ということらしいです。

 より具体的な例を挙げると、A社の従業員aと、B社の従業員bがいて、従業員aと従業員bが共同開発で職務発明を完成させたとき、というケースになります。

 普通に考えると、従業員aの職務発明に関する権利はA社に譲渡され、従業員bの職務発明に関する権利はB社に譲渡される、ということになります。普通ですね。

 しかしここで、一方の従業員(例えばA社の従業員a)が、相手側の権利の譲渡(例えば従業員bの権利をB社に譲渡すること)を嫌がった場合はどうなるのか?ということのようです。

 この点に関し、特許法第33条第2項では、「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない」と規定されています。

 つまり、 一方の従業員が嫌がった場合、自社の従業員の権利も譲り受けることができず、結果として特許出願ができなくなる場合がある、ということのようです。

 そのため、あらかじめ原始的にその企業のものとしておくことで、この同意を必要としなくてもよいようにする、というのが趣旨のようです。

 ただ、上記のような拒否をされる場合、そもそもトラブルになっていて、出願することは得策ではなく、上記手続的問題を解消しても、すでに出願の価値がないのでは?と思ってしまいますが。。

 

 個人的には、共同研究でこのような心配をして同意書を求めてくる相手方は数社程度は確かにいたことを記憶しており、その度に「必要はないと思うのだけれど、相手が求めてくるのであれば。。。」という程度で同意書を作成したのを覚えています。

 従業員がごねて問題となったことがあるという経験は、ほとんど記憶にない?と感じています。。。。ただ、法改正の解説(特許庁 平成27年度法改正解説)では問題となっているとのことでしたので、実際例はあったのでしょうね。法改正をするくらいまでのことが。。。。。

 ・・・いや、確かにあったかもしれません。ごねた例が。。。

 ただ、この例は、こちらが主張した例で、「他方の企業が一方的な条件を突き付けてきた場合の最後の一つ前のカード」でした。最後のカードは「出願拒否」ですが。。。

 すなわち、共同出願について、相手側が一方的すぎる条件を出してきて(例えば、こちらは発明の実施が実質的に想定できない状況で、費用負担も折半で、実施に応じた対価もなく、ただ費用を払い続けるのみとなってしまうような条件を突き付けられ)、これを受け入れるとこちらがあまりに不利になりすぎる場合でした。

 この条件について、こちらの従業員も納得できず、あまりに理不尽だったため、確かに、こちらの権利の一つとして主張したということがありました。メインは最後の手段である「出願拒否」でしたが。・・そう考えると意味があったのかもしれません。

 ・・・ってことは、この規定を入れられることで、共同研究の一方としては権利主張の手段を失う可能性がある、ということも考えなければなりませんね。

 ただし、このようなことは、共同研究の際、共同研究に参加する従業員に、「共同研究に参加することの同意」とともに、「共同研究の結果完成させた発明について、相手側がの発明者が共同研究先に当該発明の権利を承継させることに同意します。」の承諾書をとる 、又は義務を負わせせる状況を入れておけばよいだけの話なのかと思うのですが。。。

 比較的新しい条項ではありますので、より詳細な検討や、実務の例が挙げられてくるのを待つことになりそうですね。

 

知財セミナー(千葉市産業振興財団)

 2022年11月22日(火)に弁理士会関東海と千葉市産業振興財団でセミナーをハイブリッドにて共催します。

 ライセンスに関する基礎的なセミナーであり、ライセンス事業の理想と現実について事例をもとに説明する、というものです。

 このセミナーには企画から関わらせていただいており、宣伝です。

 日付:2022年11月22日(火)15:00~17:00

 会場:ハイブリッド開催(ZOOMと会場(千葉市産業振興財団))

 第一部:「優位なビジネス環境を確保するための契約実務(特許編)」弁理士 大塚章宏

 第二部:「自社のブランディングを成功させるためのライセンス契約(商標編)」弁理士黒田義博

 詳しくは千葉市財団のHP (https://www.chibashi-sangyo.or.jp/info-all/item/1178-web.html) をご確認いただき、ご興味を持っていただけましたら是非ご参加をお願いします。

知財セミナー(産振センタ)

 久しぶりの更新です。

 昨日千葉県産業振興センター、日本弁理士会関東会、千葉県発明協会の共催で知的財産セミナーを開催しました。

 今回は特許や商標に関する侵害問題について、砂川恵一弁理士と小林克之弁理士に講演していただきました。侵害問題は自分が警告することがなければ関係ないと思いがちですが、個人事業主でも他社から警告が来ることがあることや、そのための対応についてご説明いただきました。

 私は産業振興センターの知財プロデューサでもあり、日本弁理士会関東会の幹事でもあり、これらの連携を担当する役割として、今回は講師ではなく、企画側として入らせていただいています。

 感染状況をまだ気にする状況ではありますが多数の方がご参加いただくことができましたこと大変感謝しています。

 今年度はほかにも数回企画中のものがありますので、私のブログでも宣伝させていただこうと思っています。