平等院とパズル②

ということで、では、著作権ではないとすると、何の権利だろうか?ということになります。

これは、どうも「施設管理権」や「契約の不履行」が主張の根拠となるようなんですね。

一つ目。「施設管理権」というのは、その施設の管理者が施設を包括的に管理する権利のようです。

二つ目。「契約の不履行」は、入場する際に、お客さんがその施設管理者(お寺)と結んだ契約の内容を守っていない、という主張のようです。「えっ?入場するだけで普通契約なんてしないんじゃない?」と思うかもしれませんが、ハンコを押すような書面じゃなく口頭でも契約は成立します。実際、入場料を支払って施設に入る場合、「入場したいです。」という申込と、「お金を払ってくれればいいですよ。」という承諾が合致するので、成立してしまいます。なので、平等院は「入場の際に締結した契約の内容に違反している」という主張が可能なのでしょうね。もちろん、その契約の際(入場の際)、管理者側はきちんとお客様に「営利目的での撮影や商品化の禁止」といったことを伝えていることが前提の条件になるのですが。

また、その他いくつか論点があるようですが、本件は和解で終了していますので、今回のお話はここまで(ボロが出る前に終わります)。

なお、昨日の部分を含め、このような話は、美術館に入場して写真を撮る行為一般に適用できるので気を付ける必要があります。機会があれば改めてお話ししたいと思います。

2020年10月19日 | カテゴリー : つれづれ | 投稿者 : admin

平等院とパズル①

2020年10月12日に興味深いニュースがありました。

「(10円玉で有名な)平等院鳳凰堂の写真を使って勝手にジグソーパズルが製造販売されたため、平等院が このパズルの販売差し止めを パズル販売会社に対して求めていたところ、これが和解により決着した」というものでした。

ここでの面白さはいくつかありますが、弁理士としては、以下が興味ありました。

「どんな権利主張をして差し止めようと思ったのか」ということ、特に、「著作権は主張できるの?」ということです。

まず、「建築物」が著作権の対象になるか(著作物になるか)?というと、なるんですね。「この法律に言う著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。(この中の例示で)建築物の著作物」(著作権法第10条)。

で、次に、問題なのが、著作権の有効期間なんですね。著作権法によると「著作権は、著作者の死後70年を経過するまでの間、存続する」等と規定されています(著作権法51条等)。年数については最近改正があったので厳密には違うのですが、いずれにしても、11世紀頃に建立されたものですので、そもそも著作権法が無かった時代でもあり、仮に認めたとしても、とっくに著作権は切れているんですよね(ここでも面白い観点があるのですが、別の機会に)。

じゃあ、別の権利だよね、ということになり、弁理士の直接の範疇からは離れ始めてしまうのでした(明日に続く)。

2020年10月18日 | カテゴリー : 著作権 | 投稿者 : admin

契約と日本人

日本人と契約の「よくある相談」の時間です。

弁理士の仕事は「弁理士法」という法律に、特許などの知的財産に関する契約の代理や相談ができると記載されていることもあり、出願だけでなく、契約の相談を受けることが多くあります。

で、契約を見るときに、いろいろな場面を想定して、細かい主張を入れようとするのですが、「ここまで書いてしまうと失礼になってしまうのでは?」といったお客様の反応や、私にも心の葛藤が生じます。

それは、実際に契約というのは、相手の不義理な行動があった場合の罰のような条項を入れるのがそもそもの目的の一つなので、そのような行動があった場合を規定しようとすると、相手側から「俺を疑っているのか?」や「細かいこと言ってんじゃねーよ」のような反応を受け、お客様側もこれから行おうとする商売がむしろうまくいかなくなってしまうのではないか?といった気になってしまうためです。

そのため、細かい条項や、相手の不義理な行動を予測した条項が入れにくなり、最低限の条項のみ規定し、後は「別途協議」を希望する人もいます。こういう状況をみると、日本人というのは、互いの信用を重んじて仕事を行おうという傾向が強いところが良い点なのだな、と感じています。

ただ、別途協議だけにして契約を進めた場合で、揉めてしまうと、途端に苦しくなります。なんせ罰を規定していないのだから。

そのつらい経験をもとに、少しずつ相手方への失礼にならないよう細心の注意を払いながら交渉するというのはなかなかに大変で、法律的な解釈よりも、こっちの方が神経を使います。契約は、法律的な知識よりも、この相手とのバランス感覚の方が特に必要なようです(私が媒介又は代理で交渉される方でこのブログを読んでいただけた方には、是非とも私の苦悩をご理解いただけますと幸いです!)。

心を強くするための方法は?、もう少しうまいやり方があるのでは?、と悩んでいる毎日です。どうすればよいでしょうか?

・・・いつの間にか「私の相談」になってます?

2020年10月16日 | カテゴリー : つれづれ | 投稿者 : admin

知財セミナー

久しぶりの更新です。

時すでに遅しなのですが、昨日開催のセミナーで講師を担当しました。最近のコロナ禍でセミナーがWebでの開催がメインとなり、事前に動画を作成し、Youtubeにアップし、日時を限定して公開する、というセミナーでした。

どの程度見ていただけるのか不安でしたが、意外に見てもらえる人が多くてほっとしています。視聴いただいた方には大変感謝しております。ありがとうございます。視聴いただけなかった方にも次回以降、ご都合のつく場合は是非見ていただければと思っています。

事前申し込み者のリストを拝見したのですが、なんと千葉のセミナーであるにもかかわらず四国の方にも視聴申し込みをいただけました! 今までの対面のセミナーでは考えられなかった状況です。

なお、私の担当分の内容としては、商標の事例をもとに、商標制度の概要と、どのような場合に商標の出願を考えていけばよいのか、という25分程度のお話でした。

・・・見てほしいとは思っている一方で、自分の話している動画を見るというのは何とも言えず恥ずかしい気持ちになります。慣れなければ。。

2020年10月15日 | カテゴリー : つれづれ | 投稿者 : admin

強い特許って?

ここで問題です。

「強い特許」ってどのようなものだと思いますか?

誰も考えつかないような技術的に素晴らしい技術?
非常に精巧で複雑な技術?

確かに、技術的に素晴らしければ価値は高いかもしれません。
例えばノーベル賞を受賞した山中先生のiPS細胞等はすごいですよね。
特許としても稼いでいますよね。

これを見てしまうと「自分の発明なんて。。。」って思ってしまうかもしれません。
でもね、そうではないんですよね。

本当に「強い特許」というのは、
「その製品を作るためにはどうしても使わなければならない」特許なのです。
そして、極端なことを言うと「誰でも思いつくような」ものが多いです。
(もちろんそうでないものもあります。)

例えば、

「誰でも思いつくようなものが特許になるわけがない」と思いますか?
そうですよね。
でも、「特許出願をしたときは当たり前ではなかった」のです。

ポイントは、いずれ避けられなくなるであろう技術を、
如何に、早く先んじて出願してしまうか、ということです。

「自分の製品は簡単な改良だから」とあきらめるのではなく、
「簡単な改良だが他の人は回避できるか?」を考えてみる。
そして、その改良が新しく、そして効果があるのであれば、
出願を考えてみてはどうですか?

ただし、費用対効果が前提となりますので、その点は十分に弁理士と相談してください!!!

2017年9月25日 | カテゴリー : 特許 | 投稿者 : admin

「チバニアン」商標

有名な言葉がでてくると、必ずと言ってよいほど出てくる問題。

「関係のない誰かが勝手に出願し、登録してしまう問題」

昔は「阪神優勝」、最近は「PPAP」や「チバニアン」が騒がれていますね。
そこで、弊所の存在する千葉でもあるこの「チバニアン問題」について少し。

1.チバニアンとは?
 ラテン語で「千葉時代」という意味。
 千葉県市原市の養老渓谷にある地層が形成された時代の仮の名称。
 この地層は、地球の磁場が反転したことの証拠といわれており、地質学上非常に重要。
 現在、この時代が正式に認定されるよう国際地質科学連合に申請中。
 ただし、イタリアにライバルがおり、イタリアの同時期の地層を元に命名を争っているところ。
 命名されれば、千葉の地域創生に非常に大きな影響をもたらすこと間違いなし!!!

2.商標登録
 一方、「チバニアン」商標は、2016年8月に出願され、2017年3月に登録。
 指定商品は「印刷物」や「おもちゃ」、「貴金属」等
 商標権者は、個人。
 なお、「弁当」「清涼飲料」等については、2017年6月に出願しており、出願中です!!懲りていない!!

3.登録されてしまうと?
 登録されてしまうと、「チバニアン」を付した印刷物や、おもちゃ、貴金属等が販売できなくなります。
 おそらく、チラシなどに「チバニアン」と書いた場合に、警告して使用料を求めたいのですかね?

 そしてこのような場合、よくある質問が、「なぜ登録できてしまうの?」ということ。
 出願された商標を拒絶するためには、様々な条件があります。今回の問題に関係すると思われるものは、ざっくり、
 (1)商品の産地、販売地等を普通に用いられる方法で表示するもの
 (2)既に登録されている商標と類似するもの、
 (3)公序良俗に反するっもの
 (4)既に他人の周知な商標であるもの
 (5)不正の目的があるもの
 ということになります。これらに該当した場合は、登録できません。

 しかし、ここで、各々解説していくと、
 (1)は、「チバニアン」は産地等だからダメなのでは?と思いますが、
 「チバニアン」は時代のことですので、産地などではないので、該当しにくいのです。

 (2)は、既に登録がないようだったので、これも適用が難しい。

 (3)これは、放送禁止用語のようなものであり、「チバニアン」は公序良俗とはなかなか言いにくい。
  公の秩序を乱しているという主張はできると思いますが、なかなか審査官は指摘しにくいようです。

 (4)これは、多少周知になっているかな、と思いますが、
  「他人の商標」とまで明確にいえるものではないので、
  この条項の適用も難しい。

 (5)これが最後の砦ですが、「不正の目的」って、意外に主張が難しいんです。
  この不正の目的があると何となく感じていても、審査官は明確な証拠を持って立証できないからです。

  なので、結局、登録にしてしまう。ということになったのでしょうか。
  
  現在、商標の取り消し審判が継続しているようですので、
  生暖かい目で見守りたいと思います。

2017年9月23日 | カテゴリー : つれづれ | 投稿者 : admin

授業

10月から大学で授業を担当します。

特許明細書を読んで、特許文献を調べて、特許を実際に書いてみる、という授業。

一人ずつ添削するため時間と手間がかかる授業で、
あまり多人数を見ることができず、迷惑をかけることも多いこと。
そもそも今年受けてくれる人が何人いることやら。。。。

大学が研究と教育をやっていればよいと考えていた時代は今は昔。

最近は、大学の技術移転活動も大学の重要な使命となり、
大学の先生が自分で事業を起こすことも珍しくない時代。

特許は権利を取得して他社からの模倣を防止する有効なツールであるだけでなく、
自分の事業の優位性を示すバロメータにもなります。

特許は主役ではないですが、読み方や多少の書き方は知っていないといけないこと。
いいようにされてしまわないように。。。

2017年9月22日 | カテゴリー : つれづれ | 投稿者 : admin

アルマゲドン!!(宇宙空間での特許権)

久しぶりに映画「アルマゲドン」を見ました。

地球に衝突する軌道にある小惑星が発見され、
ハリー(ブルース・ウィルス)率いる技術者たちが、
その小惑星に乗り込み、破壊して地球を救う、という話。
涙なしには語れません!!

特に、ハリーやA.J.(ベン・アフレック)たちが一列に並んで歩き、宇宙船に乗り込む場面。
超名場面です!
様々な映像でオマージュされていますしね!!

…オマージュと著作権の話はさておき、
やはり、私がちょっと知っている分野の、特許の話。

小惑星での作業に超頑張った作業船「アルマジロ」
そのアルマジロに特許問題があったようで、ハリーが「俺のアイデアを盗んだ」という主張をするのですが、
NASAの研究者は「宇宙に特許はない」と言い放つのです。
なるほど。

実はこのシーンは企業時代の個人的な思い出も。

私の先輩が、企業の採用面接面接で、「宇宙空間に特許権は及ぶのか?」と、応募者(後の私の「後輩」)問いて、
その後輩が、アルマゲドンのこのシーンにピンときて「及びません!!」と答え、アルマゲドンの話で意気投合したという話。

で、久しぶりに確認を取ってみたのですが。。

米国特許法第105条
(a)合衆国の管轄又は管理の下に,宇宙空間において,宇宙物体又はその構成要素に関して行われ,使用され又は販売されたすべての発明は,本法の適用上,合衆国内において行われ,使用され又は販売されたものとみなされる。~

…んん? あれ?

適用されています!!!

映画は映画として楽しむもので、真実ではないこともあるのでそのままうのみにするのは危険!!
(当たり前!!)

というお話。

2017年9月21日 | カテゴリー : つれづれ | 投稿者 : admin

一発登録(拒絶理由通知なしの特許査定)

特許出願では、審査請求という手続を行うと、
特許庁審査官が審査を行い、
拒絶の理由があるか否かを審査します。

その審査の結果、
拒絶すべき理由があると考えた場合は拒絶理由がきますが、
拒絶すべき理由がないと考えた場合は特許査定がきます。

最終目標は当然、「特許査定」です。

で、ここで質問。
拒絶理由通知は来た方がよいですか?来ないほうが良いですか?
こんな時、当然「来ない方がよい」と答えるでしょう。私もそうです。
出願人の方にとっては余計な費用が掛かるものですしね。

でもね、拒絶理由が通知されずに一発登録というのは実はもったいない可能性があります。
「本当はもっと広くとれたかもしれないのに、狭く権利を取ってしまったかもしれない」という可能性です。

出願時には最大限広くとれる範囲を想定して記載するものです。
でも、一発登録というのは、
「本来特許を取ることができた範囲≧特許査定となった請求項」 の関係になります。

「本来特許を取ることができた範囲=特許査定となった請求項」であればよいのですが、
公知例が全く通知されていない状態で特許査定になるということは、
そのぎりぎりの範囲がわからず、もう少し広くとれたかも、ということを意味します。

ですので、拒絶理由が通知されず特許査定が通知された場合「もう少し広くとれたかも」という考えが必要です。
特許権を取得できるという喜びは当然ですが、この点を見落とさないでください。

昔、私が企業にいたとき、特許査定がきてしまうと、
権利をより広くするための分割出願のチャンスがなくなってしまうので、
確実な権利範囲を確認するため、
わざと拒絶理由をもらう請求項を作ったりしたこともあります。

ただ、現在は、特許査定が来た時にも分割することができるため、
この要請はかなり低くなりました。

一発登録でも油断しないように、というお話でした。

2017年9月19日 | カテゴリー : 特許 | 投稿者 : admin

特許と実用新案の「進歩性」の違い

よく
特許は「大発明」、実用新案は「小発明」といわれます。

そして、これを象徴する言葉に「進歩性」というものがあります。
特許では、登録するために
「容易に発明をすることができなかったこと」が必要であり、
実用新案では、有効性を主張するには
「極めて容易に発明をすることがでなかったこと」が必要と言われています。

すなわちこの「極めて」という言葉が、
実用新案を小発明、特許を大発明、というように結び付けているのでしょう。

でも、でもですね、
実は、特許法でも、実用新案法でも、侵害された場合の賠償額の算定に明確な違いがないんです。
つまり、同じ賠償額をとれる可能性があるってことなんです。

であれば、当然、取りやすい権利のほうがいいですよね?
でも、実際はそうなっていない。
むしろ、現在の(実質的無審査の)実用新案登録制度になってから、
少なくなってきているんです。

これは、結局、上記の理由から、特許庁で審査されても、
進歩性に違いがないからなんでしょうね。
(しかも登録になって権利範囲が確定になっているのでつぶされやすい)

同じ効果であれば、実質的に同じ要件を課しているのだと思います。

弁理士として、これを言ってもいいのかな?というところはありますが、

現在、現実的にはそうなっていると解釈せざるを得ないんです。

2017年9月17日 | カテゴリー : つれづれ | 投稿者 : admin