リーチサイトと著作権

 資料を作成していたときにリーチサイトの話に触れることがあったので、
ブログでも言っておこうと思い確認したところ、
少し腑に落ちないところがあり、ここを少し調べてみたのでお裾分け。

 2019年10月から改正された著作権法が施行され、
下記のリーチサイトの行為が対象になるのはわかりますが、
これって今回の法改正前の話であり、
この点の解釈が??だったので。

 まずは、海賊版のリーチサイトについての下記ニュース

海賊版リーチサイト「はるか夢の址」運営者に実刑判決

 不正アップロードされた漫画や雑誌をダウンロードできるリンクをまとめたリーチサイト「はるか夢の址」運営者らが著作権侵害などの罪に問われた裁判で、大阪地裁は1月17日、主犯格の男3人に対してそれぞれ、懲役2年4月~3年6月の実刑判決を出した。講談社は「主犯格の3人すべてに執行猶予のつかない実刑判決が下されたことは重大な意義がある」とコメントしている。

 3人は複数の投稿者と共謀し、2016~17年ごろ、漫画「NARUTO-ナルト-」など68点が読める海賊版のリンク先をサイトに掲載、多くの人が読める状態にした。判決で大阪地裁は「起訴された68点の書籍データに限っても、被害は約4000万円にのぼる」とし、「サイト全体では極めて大規模、悪質で結果も重大」と指摘した。

 講談社によると、はるか夢の址をめぐってはこれまで、海賊版をアップロードした主婦なども、懲役刑の有罪判決を受けているという。

引用先:2019年1月18日[ITmedia News]
URL:https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1901/18/news085.html

 「リーチサイト」とは、
(自身とは別の)サーバーにアップロードされたコンテンツに、
(自分のサイトに訪れた)ユーザーを(アップロードサイトに)誘導するサイトをいいます。

 具体的には、コンテンツにアクセスするためのURL(リンク)が張られたサイトとのことをいうようです。

 リーチサイトについては、文化庁は下記のような資料を作成しています。

引用:文化庁 H2812.27 文化審議会著作権分科会 法制・基本問題小委員会(第4回)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoki/h28_04/pdf/shiryo_8.pdf

 上の資料によると、多数の流れでサイトは動いていたようです。
 ①「直接侵害者」が著作物をストレージサイト(ストレージ)に違法にアップロードする
 ②「サイト運営者」がリンク情報を掲載できるサイトを立ち上げる
 ③「リンク提供者」がサイトにリンク情報を提供する(サイト運営者とは限らない)
 ④「ユーザ」が「サイト」アクセスし、⑤ストレージにアクセスする
 ⑥「ユーザ」に著作物が送信される(ユーザーがダウンロードする)
 ⑦「ユーザ」はダウンロードした著作物を複製・視聴する

 「夢の址」の問題では、上記の行為が発生していますが、②のサイト運営者が裁かれている、ところがミソです。

 まずは簡単なところから。

 まず①の「直接侵害者」がストレージに違法にアップロードするという行為は、著作権法上の公衆送信可能化権(著23条かっこ書)の侵害となります。これは従前から変わらず、著作権の侵害として罰せられることになります。

 ④「ユーザ」が「サイト」にアクセスすることは現状違法ではありません。

 また、⑤「ユーザ」がストレージにアクセスすること自体もまだ現状では違法ではありません。

 また、⑥「ユーザ」が著作物をダウンロードする行為は、「直接侵害者」が公衆送信を行ったと考えることができるので、この点は上記①と同じです。
 ここではまずユーザではなく、直接侵害者が罰せられます。

 なお上記⑥の場合「ユーザ」はどうなるのかというと、微妙なところで、
「情を知って」「頒布の目的をもって所持」している場合等は、
著作権の侵害とみなされてしまいます(著113条)。
 「情を知って」とは、違法なものであることを知っている、ということです
 また単なる所持(記録媒体に保持している状態)は問題がないのですが、
頒布しようとしていた場合は、侵害とみなされてしまうということです。

 

 そして、残るのが②と③の問題になります。

 まず②「サイト運営者」がリンク情報を掲載できるサイトを立ち上げる行為ですが、これについては、上記の判決において「~共謀の上~各書籍データを自動公衆送信可能な状態にし,もってそれぞれ前記著作権者の著作権を侵害した」と認定しています。共同正犯ということですかね。実際に上記記事に記載されているように、違法アップロードした主婦も懲役刑になっているようですし。

 また一方で、③「リンク提供者」がサイトにリンク情報を提供する行為ですが、
②の行為はリンクを張っただけであり、リンク自体は著作物として認められる可能性は低く、コンテンツを違法アップロードした場合はともかく、リンクを張っただけでは侵害を問うのは難しのではないかと。

 しかし、上記の関連の著作権法違反を平成30(わ)4356では、「サーバーコンピュータ内に,違法にアップロードされた漫画等の書籍データのリンクを掲載するなどして,不特定多数の者に対して書籍データを自動送信可能な状態にした」とあります。結果としてリンクを張った行為が「自動送信可能な状態にした」ことの一連の行為の中に含まれ一緒に論じられているようです。

 ただし、③だけの行為、「サイト運営者」でもなく「直接侵害者」ではない単なる「リンク提供者」の場合はどうなるのかは結局わかりかねます。ただ、リンク提供者についてはYOL事件(東京高裁H17.10.6, 平成17(ネ)10049)が参考になるかもしれません。これは別のときに。

 

 リーチサイトは、そのサイトのサーバー自体にコンテンツ(著作物)をアップロード(複製)しておらず、あくまでURLを張っているだけにすぎないため、直接的に著作権を侵害しているとはいえないのではないか?といった課題があります。また、URLを張り付けるのもユーザーであったりするので、果たしてサイト運営者が侵害しているのかということも問題になりえます。

 これに関し、2020年10月に改正著作権法が施行され、上記の②、③を抑えるための法改正がなされています。この法改正については別の日にコメントしたほうが良いと思うのですが。一応下記のような変更になっています。

著作権法第113条
 1 (省略)
 2 送信元識別符号又は送信元識別符号以外の符号その他の情報であつてその提供が送信元識別符号の提供と同一若しくは類似の効果を有するもの(以下この項及び次項において「送信元識別符号等」という。)の提供により侵害著作物等(著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この項及び次項において同じ。)、出版権又は著作隣接権を侵害して送信可能化が行われた著作物等をいい、国外で行われる送信可能化であつて国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきものが行われた著作物等を含む。以下この項及び次項において同じ。)の他人による利用を容易にする行為(同項において「侵害著作物等利用容易化」という。)であつて、第一号に掲げるウェブサイト等(同項及び第百十九条第二項第四号において「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」という。)において又は第二号に掲げるプログラム(次項及び同条第二項第五号において「侵害著作物等利用容易化プログラム」という。)を用いて行うものは、当該行為に係る著作物等が侵害著作物等であることを知つていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合には、当該侵害著作物等に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
一 次に掲げるウェブサイト等
イ 当該ウェブサイト等において、侵害著作物等に係る送信元識別符号等(以下この条及び第百十九条第二項において「侵害送信元識別符号等」という。)の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト等
ロ イに掲げるもののほか、当該ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該ウェブサイト等において提供されている送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト等
二 次に掲げるプログラム
イ 当該プログラムによる送信元識別符号等の提供に際し、侵害送信元識別符号等の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該プログラムによる侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるプログラム
ロ イに掲げるもののほか、当該プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該プログラムにより提供されている送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該プログラムによる侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるプログラム

 上記の変更により、②が侵害になる可能性があるということのようです。なお③については、まだ曖昧ですね。

 ただ、この法改正はわかりにくく、複雑化しています。さらに、「殊更に誘導する」「侵害送信元識別符号(URL)が強調されている」「主として」等の判断基準が曖昧な表現が多く、自分の行為が侵害か否かの判断が難しくなります。

 「違法な著作物にアクセスをするURLの貼付けはすべて著作権侵害だ」と言ってくれればまだ明確なのですがね。

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