オプジーボ

オプジーボに関して、小野薬品と本庶佑先生が和解したそうです。
今日はこの話題を。

オプジーボ特許料訴訟で和解成立 ノーベル賞・本庶佑氏と小野薬品

 がん免疫治療薬「オプジーボ」を巡り、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょ・たすく)・京都大特別教授が小野薬品工業(大阪市)に特許使用料の分配金262億円の支払いを求めた訴訟は12日、大阪地裁(谷有恒裁判長)で和解が成立した。京大が明らかにした。
 地裁が9月に和解案(内容は非公表)を提示し、双方が協議を続けていた。
 訴状などによると、本庶氏が求めているのは米製薬会社「メルク」が小野薬品に支払う特許使用料の一部。本庶氏側は小野薬品に支払われた使用料の40%分を受け取る約束があったが、実際は1%しか支払われていないと主張した。
 一方、小野薬品側は「本庶氏に40%分の支払いを提案したことはあるが断られた経緯があり、契約は成立しなかった」などと反論していた

引用先:毎日新聞2021/11/12
URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/e6955d04179a6df39248bd76edd72404df5dded3

 なんとなくわかったような、わからないような。
 ここで経緯の確認。ただし、インターネットで調べた範囲。

 なおここで皆さん気になると思うのですが薬の名前「キイトルーダ」。
薬が「効いとるだ!」って感じですね。。。というのは置いといて。

2003年07月 小野薬品工業と(以下「小野薬品」)と本庶先生オプジーボ特許出願
2006年 小野薬品と本庶先生、売上に応じた使用料を受け取る契約を締結
  第三者から実施料を得た場合1%(自社実施0.5%)の対価を本庶先生に支払う旨規定
2009年11月 特許4409430号成立
2011年 本庶先生から小野薬品にロイヤリティの見直し依頼あり。契約を根拠に拒否
2012年12月 特許5159730号成立
2014年 メルク社に対し「キイトルーダ」が小野薬品工業の特許を侵害しているとして提訴
2014年09月 本庶先生と小野薬品相良社長が面談。小野薬品から和解金の40%の受取の提案あり。
   (しかし「はした金」として本庶先生は拒否)
2017年01月 小野薬品にメルクが約710億円を支払う内容で和解。
2018年10月 本庶先生ノーベル賞受賞
2020年06月 本庶先生小野薬品に262億円の配分を求める訴訟を提訴
2020年11月 本庶記念基金設立
2021年09月 第2回口頭弁論
2021年11月 和解(京大の基金に230億円,本庶氏に50億円との報道あり)

 経緯を見てみるとなるほどという感じです。

(1)まず、特許が成立する前(2006年)に、本庶先生と小野薬品は実施料について1%で合意したようです。
 特許として成立していない状況や、どの程度の有効性があるのかが不明である状態であれば、確かにこのくらいの料率は見たことはありますが、さすがに1%は低いかな、とは感じます。原価割れの薬?って感じの料率ですね。

(2)ただ、ここで気を付けなければならないのは、オプジーボ(PD-1抗体)が癌治療剤として承認されるためには、負担の大きな臨床実験やそのための費用が莫大にかかる、ということです。「1%なんて低すぎる!」と言ってしまうのは早計かもです。
 発見したという事実は極めて大きいですが、薬として認可を受けるためにはとてつもない労力がかかることを忘れてはならず、そのことに対する小野薬品の寄与は無視してはならないところです。
 この辺りは多分、他の文献やこれからもう少し調べると妥当だったかわかると思うのですが、これはまた別の機会に。

(3)次に、2011年に本庶先生からロイヤリティ(実施料率)変更の申し込みがあったと。
 特許として成立したことや、有効性がわかってきたところで、見直しの依頼があったのでしょうね。
 で、小野薬品は契約を盾に断ったと。なるほど。
 個人の感覚で申し訳ありませんが、事情やその有効性がより明らかになったことで、確かに本庶先生の主張はありだと思います。
 一方で、企業としては契約している以上変えることができないと考えるのも普通に理解できます。
 なお、こういうときは、出願のときに「成立したら料率を再検討」とか「特別に利益が生じた場合には料率を再検討」のような条項をおまじないのように入れることを試みます。ただ、この条項は、あまり認めてもらえないことが多かった(むしろ殆ど)です。。。

(4)普通であればこれで終わってしまうところですが、転機がありました。
 2014年の小野薬品とメルクとの訴訟です。
 メルクとの訴訟で本庶先生の力が必要になりました。
 本庶先生の今までのうっぷんがここで晴らされるのか?といったところですね。

(5)そしてついに2014年、小野薬品から「40%」という条件を引き出せました。
 これについては裁判でも小野薬品の社長も認めています。
 個人的には裁判において、ここはすごい判断だったと思います。
 この発言を認めることで、元の契約があったとしても結構に不利になりますからね。
 通常、大きな企業は交渉において、決定権を有する者を直接交渉の場に出すことは少ないです。なぜなら、その場ですぐに判断を迫られ、それがすぐに会社としての決定になってしまうので、時間を稼いで念のため確認する必要があるためです(権限がない者であれば、言ってしまったとしても表見代理はともかく「その担当者が勝手に言ったようだが会社の決定ではない」ということが言えますので)。
 ただ、訴訟という状況と、何回も担当者から本庶先生に連絡してもらちが明かなかったということで、社長レベルでないとダメ、と判断したのでしょうが。
 書面で証拠が残ってしまっていたので認めざるを得なかったのでしょうかね?
 でも、本庶先生はこれを「はした金」といって突っぱねてしまいました。えっ?

(6)本庶先生が突っぱねたことにより、小野薬品は元の契約のまま履行しました。
 つまり、メルクからの710億円の和解金の1%でよいという解釈をしたわけです。
 会社としては「社長が言ったから」というだけで正式な契約もないのに40%(260億円以上)をポンと払うわけにはいかないですしね。

(7)そしてメルクからの和解金を受けて、本庶先生は残りの39%を支払うように要求したと。

  当初、このニュースを見たとき、失礼ですが「ノーベル賞を取った発明だから小野薬品に対して強気に出たのかな?」と思っていましたが、これはノーベル賞の受賞とは関係ないですね。

 また、1%のロイヤリティが40%に跳ね上がるって、今まで経験も聞いたことがないです。触媒のように、試薬レベルでは低く、プラントに導入されるときは高く、という話はありますが、それでもここまで変わるとは。。。
 薬という分野と、訴訟という事情の相乗効果なのでしょうね。

 

 ・・・なおここから先は、私として、あまり理解も納得もできない点のお話。

 メルクからの和解金710億円ですが、じつはこの特許は米国のBMSという会社にライセンスしており、710億円の75%はこのBMS社が、小野薬品は25%(145億円)しかもらっていなかったらしいです。

 つまり、小野薬品は145億円もらったけれども、280億円ほど今回の訴訟で和解金を払った(135億円程度損している)ということになるようです。

 ここで不思議なのが小野薬品とBMSとの関係です。

 小野薬品が本庶先生にライセンス料を渋るのは、自社の利益を最大化しようとする観点からわからなくはありません。
 でも、ライセンスしているとはいえ、特許権者である自分よりも、BMSのほうの取り分が多くなるような状態にするってどういう事情だったんでしょうかね?

 さらに、本庶先生には実施料1%でも渋ったのに、そのライセンス先(BMS)には75%って、確かに、本庶先生が聞いたら怒りますよね。というより怒らないわけがないように思います。

 で、更に、自分の取り分である25%以上の40%を本庶先生に支払うって言ってしまうところがまた訳が分かりません。15%の損が確定することになってしまうので。
 せめて25%の取り分の40%(全体の10%)ということであれば(訴訟費用を無視するとして)何とかまだ利益は確保できると思うのですが。。。

 なお、最近オプジーボ特許については、米国のがん研究の2人の米国人が発明者として加えるように米国連邦地裁に訴えていたとのこと。これはまた別の機会に。

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