大学等の教育機関は、他人の著作物を複製することができます(著35条)。
ただ、最近はパワポでの授業が増えてきており、この行為が気になります。
他人の著作物が載った複製物の印刷物を配布することは著35条の範囲内で許されますが、
パワポのスライドをプロジェクタで写した場合はどうなるのか?
という問題があります。
パワポのスライドをプロジェクタで写す行為は「上映」であり、
著35条で許容される「複製」ではありません。
一方で、著38条では、
①営利を目的とせず、
②聴衆又は観衆から料金を受けない場合は、
著作物について上映、口述等をすることができると書いてあります。
つまり、教育機関においては、この条文により「上映」も許される、ということになります(結論)。
結論はこうなるようなのですが、
実は少し腑に落ちないところがありますので、今日はここのお話を。。。
(難しい話が嫌いな人はここまでで結構です )
著38条では、確かに上記①②を満たしていればよいのですが
この条文のただし書きに、
「上映等について実演家又は口述を行う者に対し、報酬が支払われる場合はこの限りでない」旨の記載があります。
そして、この「報酬」か否かの例として下記があるといわれています(加戸「著作権法逐条講義」(6訂)302-303)
(報酬とは解釈されない場合の例)
(A) 弁当代
(B) 交通費
(C) 宿泊施設代金
(D) 消防庁の音楽隊の隊員に対する給与
(報酬と解釈されてしまう場合の例)
(E) 上記弁当代等の名目であっても実費を超えるような金銭
(F) 職業的音楽バンドの人が月給制の場合の給与
・・・ここで、今日私が言いたいのは
上の(D)(F)二つの演奏家に対する給与の例って何が違うのさ?
ってことです。
逐条講義によると(D)の理由は、
公務員としての職務に従事する一般的な対価であり、
演奏行進などの場合のその演奏を行うことについての報酬ではないため
ということらしいのです。
でも、公務員であるとしても、
消防庁の「音楽隊」って、演奏に専念することが前提の職務ですよね?
消防庁の現場の救急隊員が署内のサークル”音楽隊”に属していて演奏するのであれば、
確かにその対価はもらっていないと理解できるのですが。。。
逆に、実質的に職業的音楽バンドの人が一般企業の一部署に勤める形式にして、
「事務的作業の対価」として給与をもらっている体にしたらどうでしょうか?
・・・これは普通にありそうですよね?
それとも、
公務員であるか否かで違うということになるのでしょうかね?
個人的にはあまりにしっくりこない理屈です。
ただ、上記の(D)の見解は
別の方(作花「詳解著作権法」4版 367)によっても支持されており、
学校の先生に対する見解について、
「教員の給与についても、学校の教育・研究及び組織運営に携わることに対する対価であり、
著作物の口述に対する報酬でない」と言っています。
つまり、結論としては、
学校の教員であれば、給与を受け取っていても、
著38条でいう報酬には該当しないため、
著38条に基づき自由に使用できるということです。
・・・でもね、そうなると
人にいろいろな知識を口述にて伝達するのが前提のはずの教員に対してこれを言ってしまうと
「著作物の口述に対することが前提で報酬を受けている人」ってそもそも居るんかいな?
ってことになりますよね?
さらに、これが許されるのであれば、
学校の授業でアニメ映画を授業と称してそのまま流しても問題なくなりますよね?
冗談だと思うでしょ?でもたまに居るんですよねこれが。。。
でもだめなら、どうやって禁止できるでしょうか?この報酬の解釈を限定するんでしょうか?
ここで仮に、上記報酬の解釈に例外を設けてNGにしてしまったら、もっと複雑な場合分けが必要になり、
もうこの条文の解釈なんて「その場その場でなんでもあり」になってしまうし、
これから行おうとする自分の行動が許されるかなんて予測不可能又は困難になってしまいます。
著作権法の場合、個別的な解釈が過ぎる気がします。。。
著作権は、相談を受けても、いろいろな場合分けがありすぎて、お客さんから質問されても明確な回答ができないのが非常に残念です。
私としては、せっかく著35条があるのですからこちらに教育的な上映を入れてしまえば?という意見なのです。