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分割戦略

分割戦略

 先日のニュースで、特許侵害のニュースがあったので、今日はその話。

 ただ、特許の内容の話は別の機会に譲るとして、侵害の問題というよりは出願戦略の話。

グリー、スーパーセルと特許侵害で和解

 グリーは17日、フィンランドのゲーム大手スーパーセルと特許権侵害の訴訟で和解したと発表した。
 グリーはスーパーセルが米国で配信している複数のゲームで特許権を侵害されたとして、損害賠償を求めていた。和解金など詳細は明らかにしていない。
 グリーは2019年2月以降、スーパーセルが米国で配信しているゲーム3件で特許権を侵害しているとして、損害賠償を求めて合計7件の訴訟を提起していた。
 5月には3件の訴訟について勝訴し、損害賠償金9210万ドル(約100億円)の支払いを命じる判決が下っていた。
 2社は今回、7件全ての訴訟で和解した。
 和解金など和解契約の内容は非開示だ。
 グリーは22年6月期の業績に与える影響は軽微としている。

引用:日本経済新聞 2021年8月17日
URL:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC176EX0X10C21A8000000/

 グリーの特許を調べてみると、複数の特許で複数の裁判が継続していたのですが、実はその特許の根っ子は殆ど一緒。1件の特許を複数に分割して権利化しています。

 これは、企業の特許部の経験から言うと、実は当然だったりします。むしろこの金額の訴訟では足りないくらいかも。

 特許査定や拒絶理由が通知されたときに、お客様に「分割出願しますか?」という問い合わせを行わせていただくのですが、そのときよくお客様から「分割出願の必要性ってなに?」といったご相談いただきますのでその理由についてご説明を。。。

 「分割出願」とは、1つの特許出願に複数の発明が記載されていた場合、出願を分割して別々の出願として特許庁に審査してもらう出願のことを言います。

 ここで「複数の発明」と聞くと、一つの特許出願に冷蔵庫と掃除機といったように全く違う発明を二つ記載してしまうくらいのイメージをしているかと思うかもしれません。

 しかし、実はもっと微妙なところが違うだけで「別の発明」として認定されてしまいます。ぱっと見、違いが殆ど判らず、ほんの一言違うだけでも別発明として分割出願している例が多くあります。

 どうしてこのようなことをするのか?これには理由があります。 

 項目から説明すると、私としては下記が理由として挙げられます。

(1)ライセンスや警告等に対する保険
(2)無効審判を請求されたときの保険
(3)交渉時の件数稼ぎ
(4)権利化における保険

(1)ライセンスや警告等に対する保険
 特許権を成立させるとその内容は確定します。しかし、第三者にライセンスをしようとする場合や、警告をしようとする場合、その確定させた内容では不十分な場合があります。
 弁理士や出願人は、当然、あらゆる可能性を想定して権利化を図るのですが、それでも実際のケースではこの想定を外れてしまう場合が少なくないのです。
 しかし、一度確定した権利範囲は広げることができません。そうすると警告やライセンスができなくなってしまうことがあります。
 一方、分割出願を残し、これについて権利化前の「出願状態」で保持していた場合、権利化確定前ですので、上記の範囲内に権利がなるように比較的自由度高く補正ができます。
 つまり、権利化時には想定できなかった範囲に権利範囲を修正することができるよう、保険として分割出願を残しておく、という戦略があります。
 ただ、いつこのような状況になるかわからず、審査の進捗も審査官次第のため、タイミングが合わない場合はこの戦略は無駄になることがあります。
 さらに、これを無駄に終わらせないよう、子、孫、ひ孫・・・のように繰り返すということもあります。
 実際、この分割出願の戦略をとった結果行った事件も結構あります。この話はまた別のときにでも。

(2)無効審判を請求された時の保険
 特許権が成立した場合、公報が発行され、公衆に公開されます。
 しかし、この特許を邪魔だと思った人はどうするでしょうか?
 邪魔だと思った人は「無効審判」というものを請求して、特許をつぶそうとします。
 このとき、複数の特許権が存在していた場合、その全てに対して無効審判を行わなければなりません。
 そしてそのそれぞれ権利化のポイントが微妙に異なりますので、同じ証拠や論点で無効にできるとは限りません。
 一言でいえば、「どれか残るだろう」戦略ですね。

(3)交渉時の件数稼ぎ
 これは大企業向けの戦略ですが、ライセンス等の契約交渉において、互いに保有する特許の数が多数の場合、1件1件の内容を精査することは困難です。
 このような場合、代表的な特許数件を互いに発表させてその強さを競わせるとともに、副次的に特許の件数を考慮して条件を定めることがあります。このような場合に、件数を増やしておくことで、優位な立場になろうという戦略です。
 企業にとってみれば、すでにある特許出願を複数に分割するので明細書を改めて初めから作成する手間も必要がないため、非常にお得です。特に外国の場合、翻訳料が殆どかかりませんので、手軽に件数を増やすことができます。
 ただし、この戦略はあまり褒められた戦略ではありませんけどね。

(4)権利化における保険
 これは出願の段階での保険になります。特許出願をすると拒絶理由が通知されます。出願した発明を狭めれば特許権として成立することがわかっているけれども、広く権利化しておきたい、ということがあります。このような場合、広い状態で粘ってしまうと、すべてが拒絶されてゼロになってしまう可能性があります。このような場合、成立する可能性が高い狭い発明についてはそのまま権利化させる一方、広い部分については別の発明として別の特許出願として別に審査してもらう、ということが考えられます。これが権利化における保険です。

 以上が現時点において簡単に考えられる理由ですが、個別事情によって異なりますので、ご注意ください。

 当事務所では、いろいろな失敗事例(と成功事例?)を含めてご相談に乗りますよ、という宣伝でした。

 

 

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